監修・症例提供:慶應義塾大学医学部 循環器内科 専任講師 遠藤仁 先生

紹介の経緯

患者さんの年齢・性別 80代、男性
紹介元 近隣の県立病院の循環器科
紹介理由 重症の大動脈弁狭窄症(AS)に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)目的で紹介。MRI、99mTcピロリン酸シンチグラフィの結果から、「心アミロイドーシスの可能性が高い」と申し送りあり
検査所見 MRIで心室中隔に遅延造影を部分的に確認。十二指腸の生検ではアミロイド沈着なし。99mTcピロリン酸シンチグラフィで全体的にGrade 2程度の集積を確認。
既往歴 心不全で体動困難、喘鳴を主訴に、NYHA III~IVで入院歴あり。腎機能低下あり。

紹介後のスクリーニング検査

心エコー:大動脈弁の有意な開口制限を認めたが、左室収縮能が低下し低心拍出であることから、low flow, low gradient ASであった。心エコーでは、正確な大動脈弁狭窄の重症度を評価できないため、心臓カテーテル検査で圧較差を計測する必要があった。

low flow, low gradient ASの心エコー画像

脚注:左室収縮能はびまん性に低下し、左室肥大(赤矢印)・拡大(白矢印)を認めている(左図)。大動脈弁の弁尖石灰化・開口障害を認めており(中図赤矢印)、大動脈弁の経弁速度 3m/secを超えている(右図)。

心臓カテーテル:大動脈弁の圧較差をカテーテル検査で調べたところ、30mmHg台であった。重症の基準を満たさなかったため、この段階では弁膜症に対する治療介入は行わなかった。

診断所見

心筋生検を実施し、ATTRアミロイドーシスと確定診断した。

染色後の心筋組織画像

脚注:Congo red染色でアミロイド沈着を確認し、アミロイド沈着部位に一致しTTR陽性像を確認できる。

フォローアップ頻度と検査内容

フォローアップ:その後、大動脈弁狭窄は徐々に進行し、ATTR-CMの診断から4年後にカテーテル検査で重症の基準に達した。同時に、軽労作で息切れを認め、BNP値も600ng/mL台まで上昇し、心不全の増悪が認められたため、弁膜症の治療が必要と判断した。大動脈弁は二尖弁であったため、TAVIは見送り、外科的弁置換術を実施した。アミロイドーシスの進行は抑えられており、手術は無事に終了した。

現在の病状

開胸手術後、リハビリを経て、外来通院中。

監修医コメント

本症例は、大動脈弁狭窄症治療のタイミングを適切に調整できた1例ですが、それを可能にした一因が「アミロイドーシスに対する早期治療」だと考えています。
アミロイドーシスに対して早期に治療介入することは、心機能の悪化抑制につながります。ATTR-CMの患者さんは高齢の方が多く、手術リスクがそもそも高いです。心機能を良好な状態に保つことで、弁膜症手術をはじめとした侵襲性の高い治療に耐えうる状態を維持できる可能性が高まると考えています。

心エコー

low flow, low gradient ASの心エコー画像

脚注:左室収縮能はびまん性に低下し、左室肥大(赤矢印)・拡大(白矢印)を認めている(左図)。大動脈弁の弁尖石灰化・開口障害を認めており(中図赤矢印)、大動脈弁の経弁速度 3m/secを超えている(右図)。

MRI

脚注:左室内膜全周性に遅延造影像LGEを認める。左房にもLGEあり(図中赤丸)。

シンチグラフィ

脚注:TLの集積像を参照し、99mTc-PYPが心臓に一致して集積しているか判断する。TL(上段), 99mTc-PYP(下段)

1. Unveiling transthyretin cardiac amyloidosis and its predictors among elderly patients with severe aortic stenosis undergoing transcatheter aortic valve replacement(海外データ)

CastañoA, et al. Eur Heart J. 2017; 38(38): 2879-2887.

ATTR-CMは大動脈弁狭窄症(AS)患者で報告されているが、その有病率や表現型は不明である。我々は、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)を受けた重症症候性ASの高齢患者について調査し、ATTR-CMの有病率と表現型を非侵襲的に評価した。ATTR-CMのスクリーニングのため、TAVIを受けた患者を対象に99mTcピロリン酸シンチグラフィを前向きに実施した。心エコー検査とスペックルストレインイメージングを実施した。151人の患者(平均年齢84±6歳、68%が男性)のうち、24人(15.9%、95%CI:10~23)が99mTcピロリン酸シンチグラフィでATTR-CM陽性と判定された。